どんぐり企画とは

どんぐり企画とは、鳴海遥真(兄)と菜歩(妹)が立ち上げた演劇企画。”私たちの描く非日常は、誰かの日常かもしれない “をコンセプトに、会話劇を中心とした演劇活動を行う。
2022年9月に第1回公演「いつか、どこかで、だれかの」を神戸にて上演。現在はコアメンバー5人で活動中。

お二人は、いつから演劇を始めたのですか?

菜歩:高2の冬、進路を考えるときに、やりたいことがなかったんです。ただ、本を読むのもドラマや映画を観るのも好きでした。そこで、好きだけどできないこと、やったことのないことはなんだろうと考えたら、それが演劇でした。
読んだり書いたりするときに頭の中で映像化していることを、自分の体を使って表現できたら楽しいんだろうなと。そう考えて、演劇をやりたいと思うようになりました。

鳴海:元々演劇が好きというわけではなかったんです。でも、高校の文化祭で、毎年クラスごとに演劇をやるという行事があって、何故か高1の時から脚本を書いていました。それがきっかけでした。小さい頃から本を読んだり、ドラマを見たりしていて、どこかで作り手に回りたいという思いがあったのかもしれないですね。当時から、派手さで見せる舞台よりは、メッセージ性のあるものが好きで、高校時代は楽しかった分、大学でももっと演劇を深めたいと思って、演劇サークルに入りました。

どんぐり企画はどのように始まったのでしょうか

鳴海:大学では4年間演劇をしていましたが、社会人になったら、そんな余裕はないだろうと、演劇をキッパリ止めようと思っていました。ですが4年生の時、新型コロナウイルス感染症の影響で、卒業公演ができず不完全燃焼だったんです。また、実際に働いてみたら土日は暇だし、演劇できるじゃん!となりました。少しやってみて、活動できそうだと感じたので、いくつかの団体にも参加するようになりました。ちなみに仕事は、広告系の企画制作会社で働いています。文章やコピーを書くのが好きで、今2年目です。
こうして演劇を続ける中で、他人の劇団で迷惑はかけられないし、自分の好きなときに好きなようにできる場所を作りたいと思うようになりました。そこで、妹に声をかけて始めたのが、どんぐり企画です。この界隈では兄妹企画というものがあまりないのと、妹に脚本を書いてもらおうということも考えていました。

菜歩:私は、大学に入ったものの新型コロナウイルスの影響で授業がオンラインだったので、やりたかった演劇も思うようにできず…。
そこでとりあえず休学して、ピッコロ演劇学校に本科に週2回、1年通いました。そこで初めて演劇をしっかり学びました。その後、2月ごろ、ちょうど復学を決めたタイミングで兄から連絡がきたんです。「兄妹企画みたいなのやらん?」って。面白そうだったのでノってみたら、脚本をほぼ初めて書くことになりました。
短い脚本なら一度、中2の時に書いたことがありました。「眠れる森の美女」をもじって「眠れる山のおっさん」という題で、宿泊行事のクラス発表で。でも皆お芝居なんて初めてだから、全然上手くいかなくて。悔しかったです。

鳴海:「兄妹企画みたいなんやらん?」「詳しく聞こうじゃないか」これが始まりでした。妹は本を読んだりドラマを観たりしていて、物語を書いているのも見たことがあったので、脚本を任せてみたいなと思ったんです。

どんぐり企画で、作りたい作品や、観てほしいお客さんはいますか?

菜歩:どんぐり企画では、演劇を知らない人にも共感しやすい、日常というテーマを扱っています。小劇場を観に行くと、分かる人にしか分からない作品も多いんですよね。中高時代から、皆、演劇には興味がないんだなと感じていました。そういうのを変えたいと思って。
だから、演劇関係者でも家族でもない人に、本当は観てほしいです。彼らの目に留まる方法を探したいと思うけど、難しいですね。

鳴海:演劇は演劇関係者だけで経済が回っている。制作や広報をするときに、よく心に留める言葉です。映画やドラマみたいに、演劇に興味のない人も、観て楽しめる作品を作りたいと思います。
今回の公演は、私たちの親戚も含めて、普段演劇を観ない人も来てくれて、彼らからは好評だったのが嬉しかったです。最初はそうやっていろんな人が来てくれたので、僕たちにとってはある意味、第2回の公演が勝負かもしれません。

第1回公演に向けては、どんなふうに進んだのでしょうか?

鳴海:演劇だけでなくて、いろいろな企画を出来たらと思っていたので、”〇〇劇団”という名前にはしたくなかったんです。「どんぐり」という名前については、祖父母が開いている、どんぐり文庫という、本を貸し出す小さな図書館にルーツがあります。祖父母も高齢になってきていて、いつまで続けられるか分からないので、形態は違うけど名前を引き継げたらいいなと考えました。

菜歩:私も兄も、どんぐり文庫で本に囲まれて育ちました。それがなかったら私はたぶん演劇に興味を持っていなかったと思います。
公演に参加するメンバーは、知り合いをスカウトしつつ、SNSなどで一般公募しました。

鳴海:知り合いばかりになると、身内ノリになってしまう。誰が来るか分からないリスクはありますが、外からの意見を取り入れて、開かれた集まりにしたいと思いました。

菜歩:実際、大学生から社会人、私の演劇学校の知り合いまで、いろんな方が来てくれました。

これから、どんぐり企画とお二人それぞれは、どのように進んでいくのでしょうか

鳴海:私には仕事があるので、お芝居は平たく言えば趣味のようなものです。好きなことを好きな人と作り、それをある程度たくさんの人に見ていただくということを、5年10年、変わらないスタイルでやっていきたいです。参加する役者や、脚本を書く妹が、そこから発展して社会に評価してもらったり、どんどん成長してくれたりすると嬉しいなとは思います。生活に直結していないからこんなことを言えるのかもしれないけれど。

菜歩:今、演劇をしたいと言っている兄がいて、演劇ができて脚本が書ける場所があるという、私にとってはとてもおいしい状況なんです。どんぐり企画の方向性については、言い出しっぺの兄が好きなようにすればいいかなと思ってます。例えば、大きくなりすぎると、これまで参加してくれたような社会人が演劇をする場がなくなってしまう。だから、今の規模感でいいんじゃないかな。
どんぐり企画とは別に、自分自身がこの先演劇にどう関わるのかは、これから考えていきたい部分です。

”お話ありがとうございました。本に親しんで育った2人が思い思いに進み、いつしか演劇に関心を持ち、交わってどんぐり企画を立ち上げたという経緯、とても興味深かったです。社会人と学生、まだまだ状況は変わっていくと思いますが、その時々の生活とのバランスを取りながら、時に冷静に、時にどん欲に、作品を作り続けていくのではないでしょうか。”(聞き手:小澤杏実、戸島由浦)